「TOKYO H2」プロジェクト第2弾 Japan Mobility Showで語られた水素の未来と可能性

「TOKYO H2」プロジェクト第2弾 Japan Mobility Showで語られた水素の未来と可能性

TOKYO H2 レポート

「TOKYO H2」プロジェクト第2弾 Japan Mobility Showで語られた水素の未来と可能性

11月6日(木)、Japan Mobility Show 2025にて、トークイベント「TOKYO H2プロジェクト ~東京は、水素でおもしろくなる~」を開催した。TOKYO H2プロジェクトとは、「水素を使う」アクションを加速させる官民連携プロジェクト。 イベントの第一部では「街のあちこちに水素がある未来」をテーマに、水素社会実現に向けた東京都の取り組みや、民間企業による多様な活動が紹介された。第二部では、「身近な場所から見える・広がる水素の可能性」「まちづくりから見える“水素と東京”のこれから」という2つのテーマの下、東京都の未来と私たちの生活の関わりについてディスカッションが行われた。 ここでは、当日のトーク内容や各登壇者のメッセージを中心に、水素エネルギーの“今”と“これから”をお伝えする。

水素はすでに私たちの身近に。東京の暮らしを支える“新しい力”

第一部では、東京都の小池百合子知事、トヨタ自動車株式会社 水素ファクトリープレジデント 山形光正氏、株式会社セブン‐イレブン・ジャパン 執行役員 QC・物流管理本部長 山口繁氏が登壇。また、イベント全体を通したスペシャルナビゲーターとして、謎解きクリエイターの松丸亮吾氏を迎え、“水素のある未来”を多角的に掘り下げた。

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はじめに、小池知事よりTOKYO H2プロジェクトの取り組みなどが紹介された。 「東京の水素への思いは熱いです。 この10年間で、都内を走る水素バスは2台から135台にまで増えました。羽田空港の地上支援車両や街中のごみ収集車にも水素が使われ、将来的には600台の水素タクシー(燃料電池タクシー)導入を目指しています。様々な商用モビリティに水素が活用され、皆さんの目で確かめられることとなります。 水素ステーションも30基まで整備が進み、供給量は2014年の開始時から約100倍に増加しました。さらに都内初となる大規模なグリーン水素製造拠点も稼働を始めています。本日の会場である東京ビッグサイトでも、すでに電力の一部に水素が活用されています。水素はもう、私たちの身近にあるのです。 9月に開始した『TOKYO H2プロジェクト』の“H”には、Hydrogen、Hope、Harmony、Humanなど、様々な意味が込められています。官民が力を合わせ、街のあちこちに水素がある未来を実現していきたいと思います。」

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イベント当日、水素タクシーに実際に乗車した松丸氏がその感想を語った。 「水素タクシーで会場まで来たのですが、乗り心地が全く違いました。走り出しがとてもなめらかで、揺れもほとんど感じない。ガソリン車だと加速の前に少しラグを感じますが、水素の燃料で動くと電気だからなのかスッと走り出して、とても快適でした。」

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TOKYO H2プロジェクトに参画しているトヨタ自動車の山形氏は、トヨタの水素エネルギーに関する取り組みについて次のように述べた。 「私たちは『TOKYO H2プロジェクト』の理念に強く共感し、“幸せの量産”というトヨタの使命のもと、水素社会の実現に向けた挑戦を進めています。 モビリティの観点では、電気の力で走るため非常になめらかでパワフル。長距離走行や荷物の運搬にも強く、充填時間もガソリン車とほぼ同じです。 さらに、“走る”だけでなく、キッチンカーや料理、サウナ、さらには非常時のエネルギーといった、“使う”魅力を拡張して多様なシーンでも活用していきたいと考えています。こうした新しい使い方を支えるために、持ち運びできる『水素カートリッジ』を開発しました。すでにセブン‐イレブン様にも導入いただき、大阪・関西万博でもご活用いただきました。」

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続いて、セブン‐イレブン・ジャパン山口氏より、同社での取り組みが紹介された。 「セブン-イレブンでは多岐にわたる商品を扱っています。創業当初と比較すると、1店舗に対する車両の出入りの数は大幅に抑えられるようになったものの、脱炭素化に向けたCO2排出削減において、配送車両のウェイトは依然大きいです。 FCトラック(燃料電池トラック)は充填時間の短さや航続距離の長さにおいて配送車両との親和性が高く、環境への取り組みとして可能性を感じています。 トヨタ様とは2017年に基本合意を結び、FCトラックの実証を進めてきました。大阪・関西万博でも連携し、水素カートリッジを活用した実験を実施しています。カートリッジは商品と同じトラックで運び、店舗で空になったものを回収するという“循環の仕組み”を構築しました。 東京都にもご支援いただき、都内2,900店超の店舗を運営する中で、東京都の店舗に商品を供給する配送センターにFCトラックを配置し、今後も台数を増やしていく計画です。」

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さらにステージ上では水素カートリッジを使用してバナナミルクスムージーが作られ、試飲した小池知事は「とてもおいしいですね。水素でできたと思うと、よりおいしく感じます。」と感想を述べた。 また、松丸氏は水素カートリッジに実際に触れ、その重さを体感。「頑丈と聞いていたのでもっと重いかと思っていましたが、想像していたより軽いです。交換もそれほど大変ではなさそうですね。」と感想を述べた。 重さ8.5kgのカートリッジ1本で、一般家庭の大型冷蔵庫ならば約17時間フル稼働できるという。安全性は自動車に搭載している技術を活用し、衝突安全などの検査もクリアしているとのことで、クルマの開発の経験が全く異なるシーンでも生かされていることに松丸氏からは驚きの声が上がった。

企業連携で加速する、水素活用のアイデア

第二部の前半では、新たに東京都副知事 松本明子氏、UCCジャパン株式会社 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長 里見陵氏が登壇。第一部から引き続き山形氏、松丸氏も参加した。

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まず、身近な場所で広がる水素社会普及に向けた取り組みとして、UCCジャパン里見氏より同社での事例が紹介された。 「当社は“世界のためにコーヒーの力を解き放つ”という理念のもと、2040年までの脱炭素を目指しています。気候変動の影響でコーヒーの生産地が減少する中、4年前から焙煎工程でのCO2削減を目指して水素利用の研究を進めてきました。 今年4月に静岡県の富士工場で、世界初の大型水素焙煎機での量産をスタートしましたが、水素は火力の調整がしやすく、豆の温度を繊細にコントロールできるため、風味にも良い影響があります。CO2を排出せず、おいしさを高める焙煎として特許も取得しました。先週から全国のセブン‐イレブンの店舗で飲めるようになっていますので、ぜひお試しください。」

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ステージでは、水素焙煎コーヒーと通常の焙煎で用意された2種のコーヒーの飲み比べが行われた。 水素で焙煎されたコーヒーに対し、松本副知事や松丸氏からは「とてもスッキリしていて、コーヒーの苦味が苦手な方でも飲みやすいはず。」、「クセがなくて心地よい味がした。」と、驚きの声が上がっていた。

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続けて山形氏は、トヨタとUCCで立ち上げたプロジェクトについて触れた。 「クラウンが70周年を迎えるにあたり、現在の16代目クラウンに合わせて、4つのモデルをそれぞれ表現したコーヒーを開発していただきました。UCCの開発陣の方に愛知まで来ていただき、口頭で特徴をお伝えするだけではなく実際に試乗までしていただき、何度も試飲会を重ねながら発売まで辿り着くことができました。現在全国に6店舗あるクラウン専門店『THE CROWN』で取り扱っています。」 里見氏は「穏やかさ、上質さ、華やかさ、キレ。クルマでもコーヒーでも使う表現に共通点があって、お互いに新しい発見がありました。いわゆる“乗り味”を“飲み味”で表現しよう、という挑戦は、正直大変苦労しましたが、非常に面白いプロジェクトでした。」とプロジェクト参加の感想を語った。

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他にもトヨタでは水素グリラーや水素石窯など、多くの調理器具の開発を行っているという。企業間でスピード感を持って多角的に推進される取り組みについて、松本副知事は、「いわゆる官民連携だけでなく、業種を超えた企業間連携が自発的に進んでいることが重要で頼もしく、『TOKYO H2プロジェクト』が目指している姿への重要な一歩だと感じました。今後の水素社会に向けた成長につながっていくと確信しています。」と述べた。

水素で拓く、まちづくりの新たな挑戦

第二部の後半では、東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 グループ経営戦略本部 経営企画部門長 松本雄一氏を迎え、松本副知事、山形氏、松丸氏とともに、まちづくりの視点から水素と東京のこれからを考えるトークステージを展開した。

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松本氏は、JR東日本の脱炭素に関わる幅広い取り組みについて語った。 「JR東日本では『ゼロカーボン・チャレンジ2050』を掲げ、グループ全体でのCO2排出量実質ゼロを目指しています。 鉄道分野では、水素ハイブリッド電車『HYBARI(ひばり)』の開発をトヨタ自動車・日立製作所と連携して進めており、2030年度までの実用化を目指しています。先月には東京都と『水素モビリティ体験ツアー』を実施し、小学生や親子連れに『HYBARI』を体験いただきました。 今年の3月27日にまちびらきを行なった『TAKANAWA GATEWAY CITY』では、東京駅から高輪ゲートウェイシティを結ぶルートで燃料電池バスを導入したり、水素をエネルギーとした自動走行モビリティを走らせたりと、水素活用のファーストトライアルとして取り組んでいます。今後は、街全体を水素で回すエコシステムをつくりたいと考えています。」

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JR東日本の取り組みには、トヨタのモビリティ技術も導入されているという。 山形氏は「お話をいただいたときは、電車はもともと電気で走っているのになぜ水素なのだろうと驚きました。しかし、電化されていない区間では今もディーゼル車両が走っており、その現場の課題を伺って、共に取り組むことになりました。 電車特有の難しさや技術課題を学びながら、私たちの技術もさらに進化しています。バスや電車は子どもたちにも身近な存在です。子どもの頃から“水素”に親しむことが、将来の社会の広がりにつながると思います。」と連携についての期待を述べた。 トークショーの最後は、松本副知事からの今後の意気込みで締めくくられた。 「第一部で知事がお話をしましたように、東京都が目指すのは『世界に誇る、水素社会・東京』です。皆さまのお話から、水素がすでに身近に来ていることが分かりました。これからますます共に力を合わせ、次の世代へつながる持続可能な社会を、水素を通して実現していきたいと思います。」

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Japan Mobility Showでのトークショー開催に合わせ、東京ビッグサイト1階中央ターミナルには「水素タクシー専用レーン」が設けられた。 案内を見て偶然立ち寄った人のほか、トークショーで水素の話を聞き、実際に体験しようと専用レーンを選ぶ人の姿も見られた。会場で語られた“水素のある未来”が、実際に走る車両を通して現実のものとして感じられる体験となったのではないだろうか。

水素はすでに、私たちの日常を動かし始めていた

今回のトークショーを通して、水素エネルギーを活用したプロジェクトの数々が、すでに私たちの生活のすぐそばで動き始めていることをお伝えした。その可能性は、モビリティや都市開発、そして私たちのライフスタイルへと着実に広がっている。これから先、水素エネルギーがどんな形で広がり、私たちの生活を豊かにしていくのか、期待に胸を膨らませながら官民連携の取り組みに今後ともご期待いただきたい。

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